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北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」作・演出:桑原裕子(KAKUTA)インタビュー

作品の着想について

演出のお話を頂いて北九州の街を描くとき、最初から「景色」ではなく「人」を描くと決めていました。そこでまず、出ていく人間と入ってくる人間を考えました。それぞれの心持ちの裏側には、各々のドラマや想いがあるから。出入りするさまざまな人たちによって、街は構成されている。人を描けば街の匂いや輪郭が自然と浮かび上がる、と思いました。

 

エピソードの仕立て方について

街にずっといる人、出て行った人といくつかのグループを作るところから始めました。脚本中のエピソードは、私が北九州滞在中に体験したことがベースになっています。実際に取材に伺った製作所や、野良猫がたくさんいるところ。“皿倉の父(※1)”は、最終間際に乗った帆柱ケーブルで気さくに街の話をしてくださった運転手の方がモデルです。おでん屋のシーンも実体験。退職祝いのグループとたまたま一緒になり、お別れの手紙をなぜか役者たちが朗読しました。偶然集まった関係のない人たちがワイワイ盛り上がるのって、すごく北九州らしいですよね。偶発的な出来事でパッっと盛り上がる。あの瞬間が愛おしく感じたりして。

 

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」撮影:重松美佐

 

私は市井の中にこそ物語があると思うんです。たとえば、「よそ者」からすれば他愛のない出来事が、その街では大切なトピックスになったりもする。だけどその他愛のない出来事の中にこそ、生きるうえで重要な何かが詰まっているというか。「彼の地」では日々の生活の中で、人がなんとなく我慢できてしまう、見過ごせてしまうささやかな出来事を集めました。

 

様々な登場人物に共感したという感想がありましたが、桑原さんは誰に共感しますか。

私はベトナムからやって来たキエン君(※2)ですね。私もいつまでこの場所にいられるだろうかと思います。キエン君はいつか自分の場所がなくなっちゃうかも知れない中、「はい、終わり」と言われるその時まで、そこで笑って過ごしてるわけですよね。終ったら次に行かねばというドライさも持ちつつ、だけどその場所いる間はそこでの生活を精一杯楽しみたいという感覚が近いと思います。

 

北九州でも東京でも多くの「共感」を生み出しましたが、普遍性を意識していることはありますか

10年経ってもその時代の人が面白いと思える作品を創ろうと思っています。60代後半の私の母が見ても高校生が見ても、同じように「染みる瞬間」ってあると思うんです。「何が」という部分は時代によって異なるかもしれないけど、根底に流れているものは変わらない。そういう根っこのところをいつも探して、描き続けたいです。

加えて、最近特に清濁混交の作品を作りたいと思っています。この「彼の地」でも描いたのですが、どんな街にも汚い部分と素敵な部分が存在する、そこに暮らす人々が流動することで街が匂いたつ。街だけでなくKAKUTA公演「痕跡(あとあと)」(※3)の中で描いたように人間の場合でも同じことが言えます。一人の人間の中に善悪様々な感情が行き交うことで、一人の人間が成立するんだと思います。

 

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」撮影:重松美佐

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」撮影:重松美佐

 

北九州の街の印象について

北九州って自然もあるけれども、街にはすごく猥雑な部分や工場地帯があったりと、煩雑な印象があって、そこがすごく面白いと感じます。私が生まれ育った町田市も少し似ている所があるんです。色んなものが一緒くたにある雰囲気を街の風景として、一点に絞ることなく描けたらいいなと思って書きました。

北九州の人達って自分の土地をあまり褒めないですよね。だけど実は自分の街のことを結構好きなんだろうなと彼らの話を聞いていると感じます。町田の人も自分達の町をあまり褒めないけど、みんな街から出ないんですよ。そこが居心地いいことを知っているんですよね。

 

1ヶ月間、北九州に滞在して作品を創作する体験は初めてだったと思うのですが、いかがでしたか。

外から来た人間として見た北九州の姿「よそ者の視点」を持ちつつ、街で暮らすことで段々と「住めば都」の言葉通り、この街が自分の街になっていく、街が自分に浸透していく感覚を体験しました。地元の人に街の情報を教えてもらったり、夜中の3時に真冬の街中を一人自転車で走っておでんを買いに行ったり(笑)。街に馴染んでいくこの感覚は、きっと誰かが色々な場所に転居したり、その場所へ誰かがやってくるように、どこかで日々起こっていることだなと感じます。私が感じた街に馴染んでいく感覚もこの「彼の地」という作品に活かされています。

 

感想では「居場所」というキーワードが多くありました

私はずっとKAKUTAという劇団にいて、そこを居場所だと思ってやっている。劇中で言うと街に残り続けている、“皿倉の父”みたいな人間なんですけれども、じゃあ今いるKAKUTAという居場所が自分にとって正しいのかは分からない。居場所は、そこに居れば居場所になるのではなく、私の居場所だと思えた時にそこが居場所になるのだと思います。だからよその街にスッと入れる人もいれば、ずっといるのにずっとここじゃないどこかを求めている人もいる。そういう気持ちに少しでも寄り添えたのだとしたら嬉しいです。

 

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」撮影:重松美佐

 

再演について

また北九州に行ける嬉しさがある反面、呼ばれたからには「もう一度見たい」と思わせる要素や、誰かを誘いたいと思わせる要素が必要だと考えています。同じ事を繰り返すのでは意味がないので、再演では新しいものを見つけて試していきたいです。「深める」作業の面白さは再演をしていると強く感じます。初演の勢いだけでは気づけなかった事や、単純にやり残した事を補填することはもちろん、新しく発見して、違う道筋が見つかった時は、勇気を持って進んでみる作業がすごく面白いので、それをしていきたいなと思います。

 

キャストについて

再演にあたりオーディションを実施したところ、初演メンバーが自分の役を取られてなるものかとすごい勢いと熱量で私たちにぶつかってきたんです。それだけの覚悟で来るのであれば、よりよい作品を作りたいという部分で共有していけるのではないかなと感じました。分からないでは許されない、全員が責任を持って舞台に臨む。初演よりいい再演になると思います。

 

約1ヶ月滞在されますが、楽しみは何ですか

車の免許を取ったので北九州の街をドライブしたいです!それから恋しい食べ物。“資さんうどん”に“鉄なべ餃子”に、“おでん”と“OCM”!あと、“ひとひと”のおにぎりも…!きっと体重が増えるので、今のうちに運動して細くしておきます!(笑)

 

再演にあたり/劇場プロデューサーより

北九州/東京含め大反響を頂き、重厚な手ごたえがあったので、より多くの人に観て欲しいとの思いから今回再演に至りました。東京でトリプルカーテンコールを頂いたり、物語に共感し涙して下さったりと、北九州だけでなく、どの街に住む人たちの心にも届く物語なのだという確信を得られたことも再演への大きな要因になっています。

初演の際に「女性の目でこの街を描いた時にどうなるのか」というお話をしましたが、作品を観て非常に街に、人に、作品に愛情を注いで下さったなと感じます。彼女の大きな愛情が作品を共に創る役者さんにも伝わり、舞台を観た観客の方にも伝わったのだと思います。

  • 1 「登場人物」皿倉山に住むと噂される、占い師もしくは人生相談人。
  • 2 「登場人物」職業研修で日本に来日しているベトナム人。
  • 3 2014年8月上演。第18回鶴屋南北賞受賞作品。

 

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」撮影:重松美佐

 

 

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」公演情報はこちら

北九州公演:2016年2月2日(火)〜7日(日)

東京公演:2016年年2月12日(金)〜14日(日)

 

 

舞台写真 撮影:重松美佐

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